環境 生物多様性への対応
「生物多様性の損失は、気候変動とともに、我々の地球及び人々に対する、存亡に係る脅威である」の認識の下、2030年までに生物多様性を回復軌道に乗せるネイチャー・ポジティブを目指そうとする世界的な動きがあります。
このような状況の中、戸田建設は生物多様性行動指針に基づき、事業活動を通じて生物多様性への負の影響をオフセットし、さらにネイチャーポジティブな社会の形成を目指します。
生物多様性行動指針の策定
戸田建設は、2010年に「戸田建設 生物多様性行動指針(以下、行動指針)」を策定し、グローバルな視点を持ち、グリーンインフラの提供などを通して、生物多様性の保全と再生に努めています。
行動指針では、5つの基本的な取り組み項目を掲げています。建設事業の計画・設計・施工にあたっては、生物多様性への影響の回避・低減・代償に努め、工事着工前にフロントローディングを実施し、本社・支店・現場・設計などが一体となって対策を立案しています。
生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた取り組み
研究・技術開発
筑波技術研究所で生物多様性行動計画(BAP)を策定・実行
当社の筑波技術研究所では生物多様性保全の観点から、生物多様性条約における生物多様性行動計画(BAP)として、「グリーンアクションプラン」を策定しました。
筑波技術研究所の緑地が周囲との生態系ネットワークの一部になるように展開することで地域の生態系に貢献し、地域性在来植物による緑化の適正な普及を進めています。
今後、毎年見直しを行いながら生物多様性保全に努めていきます。
グリーンアクションプラン
テーマ | 実施内容 |
---|---|
生態系ネットワーク拠点の創出 |
|
定量評価手法に基づく外部認証の取得 |
2015年
2019年、2021年
2022年
2023年
|
環境教育・啓蒙活動の実施 |
|
CO2吸収量の算定 |
|
グリーンオフィス棟の壁面緑化
筑波技術研究所のグリーンオフィス棟の外装の4面に在来種つる植物による壁面緑化を行っています。登攀型と下垂型の10種類の植物を選定し、方位などを加味して植栽しており季節によりファサードに変化をもたらしています。
落葉種については夏季には緑化面積の拡大による日射遮蔽、冬季は日射取得の効果が得られます。また、室内から直接出られるグリーンロッジアとして憩いの空間に活用しています。
この壁面緑化の生育状況やさまざまな効果、維持管理手法などについて実証的な研究に取り組んでいます。
生物多様性保全に向け、生態系ネットワークの形成に寄与
都市開発が進むにつれて、地域に生息していた昆虫や小鳥などの生物が生息できる緑地が減少し、ヒートアイランド現象等の環境問題が発生しています。
生物多様性保全するためには、敷地の空いているスペースや建物の屋上などに緑地やビオトープを設置することによって、周辺の公園や樹林地を生態的回廊でつなげ、生物の移動を可能にする生態系ネットワークを形成することが重要です。
私たちは、生物多様性保全の観点から、筑波技術研究所の緑地におけるモニタリングなどの研究活動を通じて、周囲との生態系ネットワークの一部になるように展開することで地域の生態系の保全に貢献しています。
この取り組みは自然の持つ多様な機能を高めるグリーンインフラの取り組みにもつながっています。
東日本大震災により被災した二級河川津谷川の堤防復旧工事において、発注自治体、学識経験者、NPO、周辺住民等との協働を図り、堤防工事と並行して、レッドリストに登録されている希少植物(ウミミドリ、オオシバナ)・底生生物(カニ類)が生育・生息する塩性湿地を、ビオトープに移行・再生しました。
外部学識者の指導をいただきながら、移植先の環境が適さなかった場合も想定し、3カ所に分散移植しリスクを低減する等の工夫も行っています。
また、堤防工事の計画についても、植生範囲を避けて通路を設けるなどの最善の工夫を行っています。
地域性在来植物ビオトープ「つくば再生の里」の創出
近年、緑地やビオトープの整備では、生物多様性の観点から園芸種・外来種を避け、自生種や地域性在来植物を使用することが望ましいとされ、東京都環境局が示す在来種選定ガイドラインや(一社)日本建設業連合会の行動指針等においても推奨されています。
このような状況の中、当社が生物多様性の保全・再生に貢献するためには、自生種や地域性在来植物の維持管理に関するノウハウを継続して蓄積することが重要と考え、2018年に地域性在来植物ビオトープ「つくば再生の里」を造成しました。2021年には面積を拡張し、生物多様性の拠点として研究活動を進めてまいります。
地域性在来植物ビオトープ「つくば再生の里」にて、鳥類や昆虫類などの生物と植生環境のモニタリング行い、データを蓄積することで、維持管理や生息状況をお客様への提案に活用しています。ビオトープ内では、茨城県の準絶滅危惧種となるキイトトンボ、コノシメトンボ、タマムシ、ショウリョウバッタモドキを確認しました。
敷地内の施設整備のため建設時に伐採した樹木を外装ルーバーの材料やイスやテーブルの天板として活用しています。受水槽の周辺緑地にはヤマユリが自生していたため、移植及び種子採取による播種を行い、5年後、開花することを確認しました。コブシやソメイヨシノの樹木やフデリンドウなどの貴重種を移植するなど、ミティゲーション活動を推進しています。
ビオトープの概要
- 所在地
- 茨城県つくば市要315
戸田建設筑波技術研究所内
- 面積
- 約500m2(池の面積:約75m2)
- 主な植栽樹種
- (高木植物)コナラ、エノキ、エゴノキ、ヤマザクラ等
- (低木植物)ムラサキシキブ、コマユミ、ガマズミ等
- (地被植物)マンリョウ、ヤブヘビイチゴ、フキ等
- (湿性植物)イヌホタルイ、セリ、イグサ等
緑の認定取得
筑波技術研究所が環境省の「自然共生サイト」に認定
2023年10月、筑波技術研究所(茨城県つくば市)の敷地の緑化が、民間等の取組みによって、生物多様性の保全が図られている区域を対象とした、環境省の「自然共生サイト」に認定されました。
筑波技術研究所では、つくば地域に生育していた希少種を含む在来種を移植・育成して地域性在来植物ビオトープを造成し、継続的に年6 回のモニタリング調査を実施しています。今回そのモニタリングと適正な維持管理に繋げていることが地域の生物多様性の向上に貢献していると審査委員会で評価され、認定に至りました。
「SEGESそだてる緑Excellent Stage2」の認定を取得
筑波技術研究所(茨城県つくば市)は、(公財)都市緑化機構が運営するSEGES※に認定されました。SEGESは、社会・環境に対して貢献度の高い優れた緑を評価・認定する制度です。事業者が所有する緑地(300㎡以上)の優良な保全、創出活動を対象とする「そだてる緑」部門の「Excellent Stage2」を取得しました。
地域性在来植物ビオトープ・草地ビオトープ、屋上・壁面緑化のほか、野鳥の森・昆虫の林ゾーンなど、様々なテーマをもった緑化への取り組みに対して、研修・見学などの外部コミュニケーションに緑地を活用している点などが評価されました。
※ SEGES:Social and Environmental Green Evaluation System. シージェス。社会・環境貢献緑地評価システム。
地域性在来植物トレーサビリティ認定を取得
地域性在来植物による緑化の適正な普及のためには、植物の採取から育成、出荷までの工程における、適正な管理が求められます。「つくば再生の里」では、造成工事前に植栽に用いる植物の種子および苗を採取した場所、育てた場所、その間の管理方法など出荷に至る履歴を連続的に記録し、育成し、樹木に対するトレーサビリティ認定を取得しました。
- 認定団体
- 一般社団法人 生物多様性保全協会
- 認定番号
- 製第2019007号(2019年5月13日)
- 製第2021001号(2021年9月18日)
- 認定数
- 268
関東・水と緑のネットワーク百選に選定
当社の筑波技術研究所の緑化活動は、一般社団法人関東地域づくり協会と公益財団法人日本生態系協会とが主催する 第7回「関東・水と緑のネットワーク拠点百選」(2015年10月)に選定されました。
審査員には、自然が多くあるエリアで拠点として利用できること、限られた面積の中で最大限にビオトープを生かしていることを評価していただきました。
環境教育を通じた理解促進
社員教育・啓発活動の実施
当社では、生物多様性保全の重要性を社員一人ひとりが認識して業務を遂行できるように、社員の意識醸成、啓発活動を行っています。
その一環として、社内報では自社の環境活動情報の紹介に加えて、生物多様性をテーマに外部専門家へインタビューを行うなど、社員に向けて情報を伝えるだけでなく、企業として環境に積極的に取り組んでいく意識づくりも行っています。ますます関心の高まる環境問題、生物多様性について意識啓発の場として積極的な活用を進めていきます。
2021年度は当社の筑波技術研究所にあるビオトープやグリーンオフィス棟(カーボンマイナス)についても社内報で取り上げ、社員に向けて紹介をしています。
筑波技術研究所潜入ルポ・「技術と研究でSDGsに貢献」[PDF:2.7MB]
戸田環境・社会貢献賞
戸田環境・社会貢献賞は、環境部門、社会貢献部門に分かれており、そのなかで生物多様性に関する取り組みは以下の通りです。
名古屋支店 (2022年度) |
名古屋支店 | コアジサシ保全、緑化による生態系ネットワーク創出等、生物多様性の維持・保全 |
---|---|---|
関東支店 (2022年度) |
関東地整入間川古谷樋管工事作業所 | 地盤改良工施工時の汚濁水流出防止対策 |
東京支店 (2021年度) |
(仮称)平河町PJ新築工事 | 多摩産材使用による国際的な森林保護の認証制度に基づく認証の取得 |
首都圏土木支店 (2021年度) |
都水道拝島給水所2号配水池築造作業所 | 東京都名湧水と生存生き物の保持 |
関東支店 (2020年度) |
関越自動車道 東松山工事作業所 | コンクリート表面処理で発生した汚濁水処理 |
大阪支店 (2020年度) |
近畿農政大中の湖新田排水作業所 | 中間水槽内の生物保護活動 |
2022年度の大賞、カーボンニュートラル貢献賞はこちら
小学生の筑波技術研究所見学
子供たちの環境への関心や理解度の向上を目的に、当社の筑波技術研究所にて小学生を対象とした見学会を実施しています。見学を通じ、生物多様性の保全の必要性や建設業と生物多様性の関わりなどについて学んでいただきます。
建設事業への展開
生物多様性に配慮した技術等を提案した営業案件数
生物多様性に関する提案件数をKPIとし、当社保有技術やノウハウをお客さまへ積極的に提案しています。
生物多様性に配慮した技術提案数は、環境パフォーマンスデータを参照してください。
海の生態系と共生する洋上風力発電施設を目指して
当社は長崎県五島で浮体式洋上風力発電の実証を行いました。環境省の実証事業において、⾵速や波浪といった気象及び海象観測のほかに、⽔質、⿂類、海洋⽣物、⿃類など様々な項⽬について、環境への影響を調査しました。⾵⾞を中⼼とした周辺海域等で季節ごとに実施した調査の結果、すべての調査項⽬について環境への影響は⼩さいことが確認され、浮体構造物には⿂の集まる漁礁効果も期待されています。
今後も浮体式洋上風力発電の量産化、大型化の技術開発を進めるとともに、生態系への影響を調査し、ステークホルダーへの適切な情報開示を進めてこの技術の実用化を目指します。
震災復旧工事における塩性湿地の再生および希少動植物の保護
東日本大震災で地盤沈下・破堤した宮城県の河川堤防の復旧工事では、施工場所が三陸復興国立公園の特別地域である他、生物多様性の観点からも重要視されている汽水※環境の塩性湿地で、レッドリストに登録されている希少植物・底生生物が複数確認されました。
施工において、希少植物の適切な移植、生育基盤造成等を行い、アカテガニ等の希少底生生物の生態系が新しい湿地へ移行していることが確認できました。
震災復旧の大規模な生態系の保全措置を成功させた点に、発注者からも高い評価をいただきました。
※ 汽水 河川などから流出する淡水と、海洋の海水とが混合して形成される中間的な塩分濃度の水体
道路拡幅工事における希少動植物の保護
最近の例では、トンネル掘削の工事用道路として使用する約2kmにおよぶ市道および林道の拡幅工事における両生類重要種および底生動物重要種の影響範囲外への移設、また、絶滅危惧Ⅱ類のコアジサシの工事敷地内への飛来に対する営巣保護活動などを行っています。
トンネルの工事用道路に隣接する一般河川近傍において底生動物が74種および重要種の昆虫類が12種確認されました。工事による生息地への影響の可能性があることから、専門家の助言を得ながら移植などの環境保全措置を行い、特に底生動物(ニホンザリガニ)については移植先の同種の個体の保護のために石や樹木の補充や伝染病予防のための夏季移植に努めました。また、重要な魚類に対して河川への濁水対策を講じる等の最善の工夫を行いました。
愛知県「あいち生物多様性企業認証制度」において優良認証を取得
工事敷地内に飛来した絶滅危惧Ⅱ類のコアジサシが営巣活動を始めたために、工事を一時中断して対応策を検討・立案しました。法令上、卵やヒナを許可なく採取・移動させる行為ができないため、コアジサシ等鳥類専門家からの適切な対応策をもとに、卵保護のための排水側溝、産卵箇所全周へのトリカルネットの設置、産卵エリアとして2haの砂礫地面積の確保およびモニタリングによる監視により、2カ月の飛去期間でヒナの巣立ちに寄与しました。
こうした取り組みの結果、2022年に当社名古屋支店は愛知県「あいち生物多様性企業認証制度」において、生物多様性保全に貢献する取り組みを行っている企業として認証を取得しました。
その後も、協力会社と社員による外来植物オオキンケイギクの駆除、支店屋上緑地での在来植物による生態系ネットワーク構築、「なごや環境大学」での小学生対象の環境共育講座開催等の活動を進め、2023年には同制度の優良認証を取得しました。
ホタルを守り移転工事
九段坂病院建設工事(東京都千代田区)は、千代田区の高齢者総合サポートセンターと九段坂病院が一体となった施設で、正面は道路に面し、両隣は九段会館と千代田会館に挟まれ、牛ヶ淵に面した部分は石垣の塀という立地に建設されました。
牛ヶ淵は、江戸城の内堀のひとつで希少なヘイケボタルの生息地です。牛ヶ淵に生息するヘイケボタルは固有種とされ、ホタル以外にも貴重な生態系が残る場所です。
ヘイケボタルは、夜間明るいと繁殖に支障をきたすため、お濠側の遊歩道、5階屋上テラスの照明器具は庭園灯などを低い位置に設置し、直接光がお濠側に当たらないように配慮しました。また、タイマー設定により午後9時に消灯するなど、保護に配慮をした工事を実現しました。
環境に配慮した東京駅前のオフィスタワーTOKYO TORCH 常盤橋タワーおよびTOKYO TORCH Parkを施工
当社は、TOKYO TORCH常盤橋タワー(工事名称:東京駅前常盤橋プロジェクトA 棟新築工事、東京都千代田区)および同ビルと合わせて整備されたTOKYO TORCH Parkを施工しました。TOKYO TORCH Parkでは、ABINC認証(いきもの共生事業所®認証)等の環境関連の認証を取得しています。当社は生物多様性の保全に向けて、生物多様性関連の認証を取得するプロジェクトにも積極的に参加しています。
資材等の調達・外部との協働
生物多様性に配慮した調達
調達方針・ガイドラインおよびグリーン調達ガイドラインに基づき、グリーン調達対象品目(建築土木工事やオフィス業務で調達する資機材・工法・製品)を選定し、全社グリーン調達品目一覧表としてまとめ、社内に周知しています。さらに、協力会社への要請、発注者や設計者への提案を行い、グリーン調達を推進しています。
木財トレーサビリティTMと森を忘れないプロジェクトTM
当社では循環型森林経営を実践する北海道下川町と包括連携協定を締結し、持続可能な林業を実践する自治体の森林資源を活用した木造・木質建築の実現に取組んでいます。
森林認証を受けた国産木材の木財トレーサビリティTM担保と、CO2固定効果や木の温もり・暖かさに加え、デジタル技術を活用した「木の記憶」という付加価値をもつ建築「森を忘れないプロジェクトTM」をお客様に提案し、森林生態系の再生・ネイチャーポジティブにつながる建設を目指します。
※「木財トレーサビリティ」、「森を忘れないプロジェクト」…商標出願中
包括連携協定を締結する北海道下川町の林業・林産業