Zoom UP 現場
横浜市庁舎
耐震補強工事
(免震レトロフィット)

横浜の発展を見つめ続けた市庁舎を未来に残す

横浜で暮らす人々の生活を支え、市の中枢として機能してきた横浜市庁舎。築50年を迎えるこの建築物を未来に残すための工事が終盤を迎えている。

慣れ親しんだ市庁舎を未来へ

2009年、横浜は開港150周年を迎える。博覧会「開国博Y150」を始めとしてさまざまなイベントが開催される予定だ。JR関内駅直近、行政の中心地にそびえ立つ横浜市庁舎(行政棟)は50年前の開港100周年の際に建築された。新歌舞伎座などで有名な建築家・村野藤吾氏の設計で、施工は当社である。
竣工から50年。耐震診断基準に基づく耐震診断により補強が必要との結果を受け進められているのが「横浜市庁舎耐震補強工事」。近い将来起こると予想されている大規模な地震に対し、人命・財産保護のほか、災害対策本部として活動の拠点として機能しうるよう、十分な耐震性能を確保することを目的としている。また、耐震工事に加え、地下1階の内装工事、トイレやエレベーターの改修、中庭棟の改築や外構工事なども請け負っている。
耐震工事の工法として採用されているのが「免震レトロフィット」。既存建物の基礎の部分に免震層を設け、建物と地盤を切り離す。地盤の揺れが免震装置によって和らぎ、建物全体がゆっくりと揺れることで建物への被害を防ぐしくみだ。工事の大半は地下階及び免震層のみで行われ、耐震壁を増設する工法よりも上層階の補強工事が少なくて済み、執務室を使用しながらの工事が可能となるので、市庁舎で働く人々の仕事を妨げることなく工事を進めることができる。

竣工当時の横浜市庁舎
現在の横浜市庁舎
作業所長

安全を考慮しながら工程を決定

図-1 免震装置配置図

「免震レトロフィット」の工程の中でもっとも多くの時間を割くのが免震装置の設置。ジャッキで建物荷重を支持し、柱を切断。そこに免震装置を取り付けてジャッキダウンし、免震装置に荷重を移す。この工事では三種類の免震装置を組み合わせ計152基設置する(図-1参照)。

柱の切断については構造上の安全面を考慮して、(1)仮支持状態(ジャッキプレロードからジャッキダウンまで)の柱は6本まで、(2)隣り合う柱は同時に仮支持しない、(3)プレロード及びジャッキダウンは柱1組(2本)ずつ行う、といった取り決めがある。制約があり、なおかつ地下階での作業なので大型重機が使えず、ほとんど人力で行わなければならないなかでも円滑な進行を実現するため、綿密な計算の下に工程が組まれている。「この工事では入札時の技術提案により工期を110日も短縮する計画を立てています。これは免震部材の設置サイクルを充分に検討したからこそ。工事は段取りが命です」と作業所長は自信をのぞかせる。

「免震レトロフィット」の施工手順
1外周掘削工事

建物の外周に山留め壁を施工。
擁壁支持杭を打ってドライエリアを掘削する。

2外周擁壁構築工事

擁壁コンクリート、仮設スラブを打設して建物を支え、耐震性を上げる。

3地下1階既存スラブ解体工事

柱に補強鉄板を巻く。その後、既存スラブを解体。

4免震装置設置準備工事

RC架台を打設(基礎を打ち増しして、すべり支承を載せられる大きさにする)。床受け鉄骨を取り付ける。

5仮設支持柱を設置

打ち増しした基礎の上にジャッキを取り付けてジャッキアップ。
荷重を柱から基礎に移して、柱を切断できる状態にする。
その後、柱をワイヤーソーで切断。

6免震装置取り付け工事

柱の切断部を取り除いて、免震装置を取り付ける。
免震装置の上下をモルタルで固め、柱・基礎に固定する。
その後ジャッキダウン。ジャッキと仮設支持柱を撤去する。

7地下1階新設スラブ工事

地下1階の床部となるスラブを打設する。

8免震化工事

仮設スラブを撤去し、外周壁を切断。建物は地盤と接触せず、免震装置のみに接している状態となる。

夜を徹しての作業で工期と戦う

施工上のポイントとなったのが弾性すべり支承(免震装置)の設置、特に三分割したベースプレートのつなぎ目の精度の確保である。この装置は地震発生時に水平方向に最大60cm移動する。その分だけすべることができるよう、装置下部にベースプレートを設置し、そこにすべり板を載せるのだが、柱を切断した時点では左右のジャッキが邪魔となり一度に設置できないため、分割して設置するのである(図- 2参照)。ベースプレートを張り合わせる際に段差があると、いざ大地震が起きたときにすべり支承の動きを阻害してしまう。そこで、段差が無いよう高い精度でベースプレートを張り合わせている。

この工事は執務室を使用しながらの工事であるため、騒音・振動には特に注意を払わなければならない。議会の開催時などは大きな騒音の出る工事は慎まなければならない。現場では月曜日から木曜日にかけては昼間・夜間を通して作業が行われており、掘削や解体など、大きな騒音や振動が出る工事は夜間に回す。土日も昼間のみではあるが作業日となっている。金曜日は休みではあるが、作業所見学会が開催されることもあり、その対応をする必要がある。現場ではうまくシフトをローテーションさせて社員の休日を確保しながら作業が進められている。
現場はJR関内駅のすぐそば。ほとんどの工事は市庁舎内で行われており、市庁舎の窓から工事の様子がよく見える。だからこそ、「『見られる仕事』ではなく『見せる仕事を』。服装、行動、態度。全作業員が常に気を配っていなければなりません」と作業所長は注意を喚起する。もう一点、作業所長が強調するのが、この工事が同様の例が少ない特別なものであることだ。「ほとんどの工事が地下ということもあって見た目の派手さはありません。しかし、貴重な建築物とそこで働く人々を守る、使命感の高い現場であることを誇ってほしいと思います」。今年度入社したメンバーは「ジャッキで建造物を支えて免震装置を取り付ける。この作業にとても感動しました。めったにない工事なのでしっかりと学んでおきたいですね」と目を輝かせる。

図-2 三分割ベースプレート
施工図を確認するメンバー

市民の願いに必ず応える

2008年12月中旬の時点ですでに免震装置の設置工事は終わっており、現在は食堂・売店及び倉庫が設 けられる地下1階の内装工事が進められている。進捗は極めて順調だ。「免震化工事は終わっていますが、内装などまだまだやるべきことは残っています。作業員一同、改めて気持ちを引き締めています」と副所長は力強く語る。地下1階の内装を担当しているメンバーは「内装工事も順調に進んでいます。後輩の良い見本になれるよう頑張っています」といきいきとした笑顔を見せた。
「私は横浜市民。自分の住む市役所の工事に関わる機会は滅多にありません。建物にも愛着がありますし、この工事に携わることができとてもうれしいですね」と話すのは工事全般を担当するメンバー。市庁舎が現在の形のまま残っていくことは市民の切な願いのようだ。「横浜市庁舎は市民にとっても、戸田建設にとっても思い入れのある建物。たくさんの人々の想いを大切にしながら、無事に工事を終えたいですね」と作業所長。築50年を経た横浜市庁舎は、これからもずっとこの地で街の発展を支え続ける。

地下の免震層。たくさんの免震装置が並んでいる

私たちが作っています

工事概要

工事名称 横浜市庁舎耐震補強工事
工事場所 横浜市中区港町1-1
発注者 横浜市行政運営調整局総務課
設計監理 横浜市まちづくり調整局施設整備課
(株)東畑建築事務所
施工 戸田・馬淵・住友電設・ダイダン異業種JV
工事期間 2007年2月〜2009年4月
工事概要 【行政棟部分】
地上8階、地下1階、塔屋2階
SRC造(一部RC造、S造)
建築面積 2,740m2
延床面積 20,756m2
用途 官公庁舎