(本体)建設工事
地域の期待に応える高品質のダムをつくる
佐賀県西部、井手口川流域の住民に資する多目的ダム。複雑な地質や工期短縮などの課題をクリアし、急ピッチで工事が進んでいる。
地域の里ダムとして
佐賀県伊万里市を流れる松浦川水系の井手口川。その中流部で井手口川ダムの建設工事が進められている。井手口川総合開発事業の一環をなす井手口川ダムは、洪水調整や水道用水確保などを目的とした県営ダムである。総合評価方式による8者入札の結果、技術評価点がもっとも高かった、当社と佐賀県内の2社で構成する当社JVが本体工事を受注した。
2008年7月のダム本体の基礎掘削と仮設備工事を皮切りに、同年12月からはダム堤体のコンクリート打設がスタート。昨年5月には佐賀県知事らを招いた定礎式を開催し、現在も堤体の建設作業が進んでいる。
「井手口川ダムは、集落やJRの駅に比較的近い、地域に密着した『里ダム』です。ダム建設では、100%地域の合意を得るのは難しいものですが、本ダムに関しては、水の安定利用につながるとして地元の農家の方々から大変期待されています」と作業所長はダム建設の意義を話す。
岩盤の問題をクリアする2つの工法
井手口川ダムの堤頂長は235m、堤高は43.7m、堤体積は約11万9000m3。ダムとしては中規模と言える。しかし、現場の地形・地質は必ずしもダム建設の好適地とは言えず、工事が軌道に乗るまでには、乗り越えなければならない課題があった。
現場は、ダム建設には一般的に基礎岩盤としての強度が不足するD級岩盤(泥流堆積物)や、透水性の高い粗粒玄武岩などの地質が複雑に入り組んでいる。これらの問題を解決するため、当初の計画よりダム軸を20m上流に移動させ、「造成アバットメント工」や「表面遮水工」などの各種工法を採用し堤体の安定と遮水性の確保を図っている。
造成アバットメント工とは、堤体が接地する地盤が堤体の重さに耐えられないときに採られる工法で、堤体の端部(アバットメント)の法面部の地層を覆うようにコンクリートの人工岩盤を設置することで地盤の安定を図る。本ダムでは右岸側に厚さ4m、幅21mに渡ってコンクリートの人工岩盤をつくり強度を高めた。「D級岩盤を除去して堅岩まで掘削する方法もありましたが、その場合、基礎掘削量や堤体積が大きくなりコストも増えてしまうため造成アバットメント工が採用されました」と作業所長。さらに施工を進める中で、設計時点では問題がないと予想されていた左岸側の地盤も所定の強度が出ないことが分かり、小規模ながら造成アバットメント工を用いることにより、再掘削を最小限に抑え、工程の確保を図った。
もう一つの特徴である表面遮水工は、ダムの湛水側の河床部の一部に透水性の高い粗粒玄武岩層があることから、基礎掘削時の土砂等の現地発生材を選別した不透水性材を透水層の上に被覆することで、ダム貯留水の下流側への漏水を防止している。
このほか、ダム左右岸地山部の止水対策として、ダム端から右岸側100m、左岸側120mにわたってトンネルを掘削し、リムグラウチングを行っている。ダムの天端より左右岸に掘られたリムトンネルに、1.5mごとに直径46mm、平均22mのボーリング孔を掘削し、セメントミルクを注入し遮水性を確保している。
土木工事では、一般的に設計書そのままにつくるのが工事の基本だが、ダムは任意仮設方式が取られる工種が多い。任意仮設とは、要求されるスペックさえ満たしていれば、そこにたどり着く道筋は施工者に委ねられていることである。このダムも同様で、「極端な話、堤体にかかわるものと基礎処理工(遮水等を目的としたセメントミルクの注入)以外はすべて任意。そこがやりがいであり面白さでもあります」と作業所長は言う。
設備の大型化で工期短縮を実現
昨年12月段階の工事の進捗状況は約6割。ほぼ予定どおりに進んでいるが、「工期にいかに間に合わせるかがもっとも苦心した点です」と作業所長は明かす。ダム工事の前提となる県道の切り回しが遅れ、着工は約3カ月遅れた。これを縮めるには堤体コンクリートの打設期間を短くするほかはない。そこで現場に投入したのが、コンクリート運搬用の300tクローラークレーンだ。バケットの大きさは4.5m3。一杯でミキサー車一台分のコンクリートを運ぶことができ、当初予定していた200tクレーンの1.5倍の容量を誇る。「このクレーンがなければ工期に間に合わなかったと思います。現場近くの唐津に、このクレーンを持っている協力会社がいたことも幸運でした」と作業所長。また、クレーンの大型化に伴い、バッチャープラントや骨材の貯蔵施設なども一回り大きくして対応した。
こうした取り組みが奏功し現在までの経過は順調で、コンクリートの打設は当初より2カ月ほど縮められる見込み。残工期も、設計変更による諸工事をカバーして目標どおりに終わらせることができそうだ。
工事に当たっては、協力会社とともに安全を最重視した施工を進めている。安全対策で特筆すべきは、骨材の運搬車両にGPS装置の搭載を義務づけ、車両の位置だけでなく速度や車両間隔を事務所で集中管理できるようにした点だ。この現場ではコンクリート材料(骨材)はすべて外部からの購入であり、多くの骨材運搬車両が出入りする。GPSを設置したこと自体が抑止効果となり、近隣住民の交通上の安全を確保している。
また、環境対策では、堤体の上流側に処理能力150t/hの濁水処理プラントを設置。工事に使う水を循環利用することで処理水の河川への放流を極力、少なくしている。さらに、下流に位置する伊万里牛の牛舎に配慮した遮音壁を設置するなど、環境負荷を極力低レベルに抑制した工事を進めている。
明日の戸田を担う若い力に期待
現場を預かる当社社員は作業所長以下10名。20代から50代まで、バランスの取れた人員構成だ。若手社員もダムという大きな仕事に携わる誇りを持って日々汗を流している。基礎処理工を担当する8年目のメンバーは、「私たちがここで良い仕事をすれば、戸田として次のダムの受注につながっていくはず」と胸を張る。入社2年目で測量と打設前検査の資料作成担当のメンバーと、新入社員でコンクリートの数量実測、材料の試験データの集計などを担当するメンバーの若手コンビも、ダムづくりにかける思いは同じだ。「大きな工事をやりたいと当社に入社したので、今の仕事に携われるのは幸せ。日々、ダムが完成に近づいているのが分かるのがやりがいです」(2年目社員)、「自分にとって忘れられない仕事になるはず。ここで覚えたことを確実に身に付けたい」(新入社員)。作業所長も「今の厳しい建設業界に飛び込んでくる若い人は優秀でモチベーションも高く、明日の戸田を担う彼らに期待しています」と目を細める。
湛水開始の2011年3月(予定)まであと1年あまり。そして引き渡しは同年10月末を予定している。作業所長は「地元の期待に応えるべく、全員が一致団結し、無事故で水密性が高い高品質のダムをつくり上げていきます」と完成までの意気込みを語ってくれた。
私たちが作っています
工事概要
工事名称 | 井手口川ダム(本体)建設工事 |
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工事場所 | 佐賀県伊万里市大川町大字東田代地先 |
発注者 | 佐賀県 県土づくり本部 |
設計管理 | (株)建設技術研究所 |
関連コンサルタント | 西日本総合コンサルタント(株) |
施工者 | 戸田・中野・中島JV |
工事期間 | 2008年3月~2011年10月 |
工事概要 |
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