Zoom UP 現場
寝屋川市古川
雨水幹線バイパス工事

府道の真下を掘り進めるシールド工事

近年、大雨による自然災害が頻発する中、災害に強い都市インフラの構築が重要視されている。近隣地域への影響を最小限に抑えつつ、当社の提案力で工事をより良いものとする「寝屋川市古川雨水幹線バイパス工事」の建設現場を訪問した。

寝屋川市

寝屋川市と氾濫対策事業

今回の『ZoomUP現場』で伺ったのは、大阪府寝屋川市で当社JVが手掛けている雨水幹線バイパス管の建設現場である。大阪のベッドタウンである寝屋川市は西側が平地、東側が丘陵地帯であり、この平地部分には淀川、古川、寝屋川という3本の一級河川が流れている。この平地部分は全体的に低地だが、特に寝屋川が西に大きく蛇行する地域は、河川水面より低い場所もあり、昔から大雨によって多くの災害が発生している。近年でも2012年8月には、約7,200戸が床上・床下浸水の被害を受けており、これを受けて寝屋川市では「寝屋川市北部流域関連公共下水道事業計画」を定めて、対策を進めている。

そのひとつが今回の「古川雨水幹線バイパス管」である。その役割について、現場で指揮を執る作業所長は次のように話す。(以下、「」内は作業所長)

「このバイパス管は、ゲリラ豪雨等、大雨時に余裕のない古川への雨水流入を減らすため、古川流域の雨水をバイパス本管に取りいれ、既存の古川導水幹線を経て、より大きな寝屋川に放流するために整備するものです。既存の古川導水幹線は古川から取水し、萱島ポンプ場を経て寝屋川へ放流していますが、今回のバイパス管はより古川上流域の治水安全度の向上を図るものです」。

作業所長は、今回の現場の東に位置する「秦高宮雨水幹線」も担当しており、寝屋川市の治水を支える2本のシールド工事を手掛けることなった。

今回の工事の主な内容は、直径2.4m、延長約1,887mをシールド工法で掘削するもので、これは市内を南北に走る府道の真下に設けられる。

「最初に北側の発進立坑を掘り、そこから南側に向かってシールドマシンで掘削を進めています。シールドマシンは先端のビットで土を掘り、その後方で5分割にして運び入れたコンクリート製の輪を組み立て、それを周囲に押し出すことで頑丈な壁となるセグメントで雨水管(地下河川)を構築します」。

このように、掘削と雨水管の構築を同時に行いながら、1日約12m~14mずつ掘り進めている。現在は2交代でこのシールド工事を行っているが、昼勤と夜勤の間の3時間で、次に掘る場所の測量を行い、指示書を作成して次班に受け渡しているとのことだ。

防音ハウス内部
発進立坑の防音ハウス内部。
写真中央のセグメントをクレーンで左側の立坑に降ろす
発進立坑底部からの見上げ
発進立坑底部からの見上げ
坑内
発進立坑から坑内を見る。
坑内からの排気はダクトによって排出される
トロッコ積載作業
セグメントを立坑に降ろし、坑内のシールドマシンまで運ぶトロッコに積載する作業

交通量の多い府道

発進立坑の上空
発進立坑の上空から、掘り進める先の南側を見る

本工事は、北側の発進立坑から南側に約700m掘り進んだところまで進んでいる。しかし、ここまでも多くの困難があったと作業所長は話す。

「一番のネックは、バイパス管直上の府道の交通量が非常に多いということです。発進立坑にも接するこの府道を使って、建材や掘削土などの搬出入をするのですが、通勤通学の時間帯などは特に交通量が多くなりますので、出入りさせる時間や台数をシビアに管理しなければなりません。市民目線に立ち、住民の皆さんの重要な生活道路であるこの府道の流れを如何に妨げないか。それが私たちの大きな課題なのです」。

その対策として、施主である日本下水道事業団様と、寝屋川市上下水道局様のご指導の下、発進立坑側では前面道路で必要な工事を最低限にすると共に、工事中は常に多くの警備員を配置してスムーズな誘導を行なっている。また、到達立坑側については、当初計画では立坑を掘るために数カ月間の道路占用(片側一方通行)を要する予定だったが、当社からの提案と関係者の理解によって、立坑の位置をシールド路線のカーブを強くして公地内に設け、交通に極力影響を与えない計画としている。

発進立坑の前面
発進立坑と前面の府道は歩道で接しており、通学時間には生徒も多く行き来する
発進立坑の前面
警備員を多く配置することでスムーズな誘導を実施。
緑色の幕部分は、掘削土を搬出するトラックのゲート

近隣への防音・振動対策

工事の拠点となっている発進立坑でも、周囲への影響を抑える対策を施している。

「発進立坑は中学校の敷地の一角に設けていますが、この中学校や隣接する民家に騒音などのご迷惑を極力お掛けしないように、全体をL字型の防音ハウスで覆っています。また既設の構造物を破壊する際にも、通常用いる重機と比べて時間やコストは掛かるものの、破砕音が出ない重機を用いるなどの対応をしており、これまで隣接する中学校や民家とは良好な関係で工事を進めていると実感します」。

他にも、市民の大切な財産である家屋について、本工事によって影響が出る可能性のある周辺の民家には、着工前と竣工後に家屋調査を行い、万一工事による影響が発生すれば補償対応すると説明し、家屋調査を実施している。
「前回担当した秦高宮雨水幹線の工事では、近隣民家に1軒も影響を出していませんので、今回も細心の注意を払って工事を進めています」。

防音ハウス
発進立坑の防音ハウスは中学校の体育館と隣接する
防音ハウス
当社の防音ハウス(左)と中学校の体育館(右)。
限られた空間を最大限活かしながら、騒音対策も万全に施している

メタンガスの脅威

「交通量の多い府道」と共に、この工事を難しいものにしている大きな要因が「メタンガス」である。

メタンガスが含まれる土中で掘削工事を行うと爆発の危険性がある。最も懸念されるのは、マシン後部でセグメントを組み立てて地面に押し出す際に、メタンガスが溶け込んだ地下水(溶存メタン)が坑内に流入することである。この溶存メタンは空気に触れると気化するため、爆発の危険性が非常に高くなる。そもそも大阪周辺は全域的に土中にメタンガスが含まれている可能性があり、この地域も以前に調査が行われてたが、その時の調査を元に、今回の工事については「メタンガスを想定しない通常の仕様」で発注されていた。

「また、メタンガスは地中で部分的に存在するため、ボーリング調査の場所によっては捉えきれていない可能性もありました。そこで本工事の着工前に、私たちが『再度調査させて欲しい』とお願いして実施したところ、メタンガスが出ました。このまま通常の工法で掘削すると爆発の恐れがあったため、防爆タイプの計画に変更することとなりました」。

防爆タイプへと計画の変更。その第一は掘削ルートの変更である。
当初、このバイパス管は古川を渡る部分で、川に架かる馬洗橋の橋脚基礎杭部分をシールドマシンで抜いて通す計画であった。しかし、万一橋脚杭のPC鋼線がマシンに絡まると、これを焼き切るためにガスバーナーを用いることになり、メタンガスに引火する恐れがあった。そこで古川を渡る部分は、馬洗橋を迂回するルートに変更となった。

「シールド工事は土地の権利上、官地(道路下)で行うことが基本です。しかし、この迂回部分は民地の下を通ることになるため、シールド工事を行うための地上権を設定したうえで、施工することといたしました。このため、該当する民家にご相談に伺いました。こうした土地の権利に関わる部分に私たち施工業者が関わることは通常ありませんが、今回は技術的なご説明のため、私たちも住民の方々へのご説明に伺うこととなりました。これは私も経験の無いことでしたので非常に苦労しましたが、なんとかご理解をいただけそうでホッとしています」。

より良い工事を実現する「提案力」

取材に伺った際には、到達立坑周囲の土壌を固める薬液注入も始まっており、これから立坑を掘り始めるとのこと。本工事の最終段階では、供用中の古川導水幹線に接続するために、セメントで固めた土を手掘りで掘削する刃口推進工が70cmある。この導水幹線は供用されており、接続すると水が工区に流れ込む危険性もあり、工事の大きな山場だと作業所長は話す。

「立坑の位置やメタンガスに関わる問題等、もし当初計画通りに工事を進めていたら、私たちの前には施工上の問題が立ちはだかり、また事業者としては工期が延びるという不具合が生じ、何よりも住民の皆さんには大きなご迷惑をお掛けする可能性もありました。今回の工事は、元の設計に対して当社として施主である下水道事業団様と寝屋川市上下水道局様のご指導の下、市民目線に立った改良のご提案をさせていただき、いかに住民負担を最小にするかという挑戦でもあると私は考えています。最後まで気を抜かず、現場一丸で頑張ります」。

私たちが作っています

作業所長
作業所長 A・T
「作業所長という仕事の醍醐味」

作業所長になるまでは、現場での役職は次席に限るな。と、思っていました。現場で起こったすべての責任を取り、物事を決定する最終責任者になる自信がありませんでした。いざ現場を運営すると、工事の方法、安全対策、地元対応、利益の確保を目指して進めていきます。部下たちと悩み、考えたことが現場で反映され、上手くいった時の感動は何事にも代えられません。精神的プレッシャーは常にありますが、日々の感動が作業所長の醍醐味であると感じています。

集合写真

現場を止めないという事を意識し、進捗をいかに伸ばすかを考えて作業しております。

自分のやるべきことを、ひとつひとつ大切にし、竣工までやり遂げることを目標としています。

土地の貸借など、地元の方々のご協力があって、工事が進められていることを実感しております。恩返しの気持ちで仕事をしております。

工事概要

工事名称 寝屋川市古川雨水幹線バイパス工事
発注者 日本下水道事業団
施工者 戸田・ハンシンJV
工期 2022年3月~2025年7月
概要 泥土圧シールド工:仕上り内径Φ2,400、L=1,887.36m
刃口推進工:内径Φ2,400、L=0.7m
立坑工:発進立坑及び到達立坑(2箇所)
地盤改良工
高圧噴射撹拌及び薬液注入工特殊人孔工:到達立坑(1箇所)
組立てマンホール工:到達立坑
付帯工:一式
家屋調査工:256棟