(仮称)建設工事
“繋がる”でつくり上げる 復興のシンボル
巨大津波によって、甚大な被害を受けた岩手県釜石市。「釜石市民ホール」は一体的に活用される隣地の多目的施設「釜石情報交流センター」とともに町の新たなにぎわいを創出する中核施設である。
設計を手掛けたのは建築家のヨコミゾマコト氏で、戸田・山崎建設JVが施工を担当している。地下1階、地上4階で、メインの大ホールは838席。1階の480席は可動式であり、これを取り外すと平土間式の小ホール(約200人収容)と平場で繋がり多目的に使用することができる。このほか防音練習室やギャラリーなど、市民が活用できるさまざまなスペースを備える。
「複雑にうねる」ホールを具現化する
この建物の大きな目玉が、「うねるような」大ホールの天井と壁の意匠である。設計者の意図を汲み取りながらこれを具現化するために、その詳細なディテールと施工方法について検討と提案を行っている。
ディテールについては設計事務所が作成したデザインイメージ用の3D CADデータを解析して、そこから約70もの断面を2次元に落とし、モックアップやBIMを用いた検証を重ねながら、具体的な素材やそれぞれの場所における細部の取り合いを決定している。また施工方法についても工場でユニット化したものを、現場で素早く積み木のように美しく組み立てられるシステムを考案した。
水と障害物との闘い
外壁2階部分に“ここまで津波到達”というプレートが張られた現場事務所で作業所長に話を伺う。作業所長は隣接している釜石情報交流センター(設計:(有)aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所、施工:戸田・山崎JV)の作業所長も務め、一昨年の4月からこの街で奮闘している。
「最初に来た時と比べると街の様子も大分変わりましたね。その頃はまだ震災の爪痕が生々しく、現場事務所を設けようにもどこも一杯でしたので、津波が冠った状態のままだったこのビルの1階を、自分たちで内装工事をするという条件でお借りしました」
ここまでの工程で最大の難関は最初の地中工事だったという。
「先行して情報交流センターを手掛けたとき、最初に試験杭を打ってみたところ地下水が溢れ出し、まるで海の中で工事をするような状況でした。今回の市民ホールの基礎はそれよりも深かったので難しい仕事でしたが、前回の経験を活かしてシートパイル(鋼矢板)による出水対策等を行うことで乗り切りました。出水以外にも被災建物の基礎等の地中障害物が残っていたりして、地下工事は困難の連続でしたね」と語る。
共に町をつくり上げる
躯体がほぼ完成し、釜石の街に建物が姿を現しつつある現在、市民の方々からの期待も日に日に高まってきている。2016年11月には約60人の市民が参加した現場見学会を開催しており好評をいただいた。このときの参加者に夏に咲いたひまわりの種をプレゼントしたところ、後日「是非現場に植えてください」とチューリップの球根をいただいたそうだ。また今春には小中学生を対象とした見学会も行われた。見学会以外にも、釜石高校がセンバツに出場した2016年には手描きの応援横断幕を掲げ、また冬には足場を利用したクリスマスイルミネーションで街を彩るなど、現場として地域と密着した取り組みを積極的に進めている。
作業所長は「社員を含めて、ここで働く人は全国から集まって、この街で日々生活しながら工事に携わっています。だから市民の方々と交流しながら一緒に町をつくっているような雰囲気がありますね。そういう中でこの現場の活気が街の復興の一助になれば嬉しいです」と語る。
人と人を結び付ける現場だからこそ、釜石の街とも繋がっている。春からは屋根や内装等、建物のポイント工事が進んでいる。完成は2017年10月末の予定である。
私たちが作っています
工事概要
工事名称 | 釜石市民ホール(仮称)建設工事 |
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工事場所 | 岩手県釜石市大町1-1他 |
発注者 | 釜石市 |
施工 | 戸田・山崎建設JV |
工期 | 2015年11月~2017年10月 |
概要 | 地上4階、地下1階 地上:RC造、S造、SRC造 地下:RC造 敷地面積:5,293m2 建築面積:4,617m2 延床面積:6,955m2 最高高さ:30m |
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用途 | 文化施設 |