近隣への配慮から生まれた
町並みに馴染む木製ルーバー。
町並みに馴染む木製ルーバー。
設計部門 荻田真士
敷地は世界文化遺産でもある西本願寺の門前町。南側の公園の近くには重要文化財でもある茶室・藪内燕庵もあり、京都の玄関口とも言える場所です。そのような場所に建つ「デュシタニ京都・植柳コミュニティセンター」の設計で大切にしたことは、まず第一に、歴史を継承し、町並みに馴染む建物であること。外壁には地域の木材を多用し、色彩に関しても景観条例に沿って、この場所にふさわしいデザインを考えていきました。
外観の特徴的なルーバーは、京町家で昔から用いられてきた格子をイメージしています。建物の3面が道幅の狭い道路に面しており、近隣住宅とホテルの窓からの視線制御をどうするのかも今回の設計の課題のひとつ。各階の客室側から近隣の窓がどのように見えるかのシミュレーションを何パターンもつくり、住民の方々のご意向をうかがいつつ各方角、各階ごとに格子の太さやピッチを変えています。結果的にその不均一さが建物の個性となり、好評をいただいています。
外観の特徴的なルーバーは、京町家で昔から用いられてきた格子をイメージしています。建物の3面が道幅の狭い道路に面しており、近隣住宅とホテルの窓からの視線制御をどうするのかも今回の設計の課題のひとつ。各階の客室側から近隣の窓がどのように見えるかのシミュレーションを何パターンもつくり、住民の方々のご意向をうかがいつつ各方角、各階ごとに格子の太さやピッチを変えています。結果的にその不均一さが建物の個性となり、好評をいただいています。
部屋ごとにピッチの異なる木製ルーバーが表情の変化を生むことになった
ホテル側のインテリアは、日本とタイの伝統文化が織り交ざったデザインを目指しました。今回、日本のデザイナーとタイのデザイナー、そして戸田建設との三者がデザインを行うなか、三者それぞれが別々の仕様では、やはり全体感が損なわれてしまいますので、我々のほうで仕上げや納まりを統一し再提案を行いました。「日本らしさ」と「タイらしさ」に共通する要素を抽出し、できるだけシンプル、かつ現代的なデザインにまとめられたことが、よかったことのひとつかな、と思っています。
京都とタイのデザインモチーフを融合してデザインされたエントランスロビー
求められる要素と
規制の多さとの兼ね合いを図る。
規制の多さとの兼ね合いを図る。
今回、小学校跡地の再開発で「デュシタニ京都」が誕生するにあたり、地域コミュニティの拠点と防災拠点の再整備を行うことも市の施策として当初から設定されていました。その再整備の中心となるのが屋内運動場。鴨川の氾濫を想定した市の洪水ハザードマップでは2mの浸水想定区域。その対応策として運動場をどこに持っていくか、というところから当社の基本計画がスタートしました。検討の結果、運動場はホテルの北側、地盤面より床のレベルを2m上げた計画とし、止水扉や脱着式防水板を設置するなど水害対策には特に気を遣って設計しています。
難しかったのは、求められる要素と規制の多さとの兼ね合いです。15mの高さ制限、3階以上の階のセットバックなど、京都の市街地ならではの諸条件のなかで、地域コミュニティの拠点とラグジュアリーホテルを同時に成立させなければならない。レストランやスパ、プール、ジムといった共用部分が通常のホテルよりも多く、容積率をギリギリまで使ってなんとかそのボリュームを収めています。
実は、建物の配置は元々の小学校の昭和初期の校舎配置に倣っています。真ん中に校庭があり、その周りを木造校舎がぐるりと囲っていたんです。今回の建物では、かつて校庭のあった場所を中庭に見立て、地下でありながら明るく開放的な空間としています。中庭の両サイドにホテルのレストランがあるのですが、近隣の方々もランチなどでよく利用してくださっていると聞いていますので、地域の方々にも親しみをもっていただけていれば、幸いです。
難しかったのは、求められる要素と規制の多さとの兼ね合いです。15mの高さ制限、3階以上の階のセットバックなど、京都の市街地ならではの諸条件のなかで、地域コミュニティの拠点とラグジュアリーホテルを同時に成立させなければならない。レストランやスパ、プール、ジムといった共用部分が通常のホテルよりも多く、容積率をギリギリまで使ってなんとかそのボリュームを収めています。
実は、建物の配置は元々の小学校の昭和初期の校舎配置に倣っています。真ん中に校庭があり、その周りを木造校舎がぐるりと囲っていたんです。今回の建物では、かつて校庭のあった場所を中庭に見立て、地下でありながら明るく開放的な空間としています。中庭の両サイドにホテルのレストランがあるのですが、近隣の方々もランチなどでよく利用してくださっていると聞いていますので、地域の方々にも親しみをもっていただけていれば、幸いです。
元々あった植柳小学校の校舎配置に倣って建物の中心に中庭を置く設計にした
異なるデザインの対比と共存させた中庭
通常の5割増し以上の
手間をかけながら、
市街地の難工事と丁寧に向き合う。
手間をかけながら、
市街地の難工事と丁寧に向き合う。
施工部門 大庭功之
地上からは想像がつかないかもしれませんが、この建物の半分以上は地下にあります。京都市の景観条例で定められた建物の高さ制限により、レストランや駐車場などホテルの共有部の多くを地下に収めています。同時にこの地下は、必要な設備機器を収めるための重要な空間。屋根は勾配屋根に、という規制もありましたので、屋上に設備機器を設置することができず、地下2階に設備室を設けています。
ここまで地下に設備を集約することは滅多にありません。重たい設備機器を地下深くまで下ろし、身動きのとりにくい状況で所定の位置に据える作業は、危険を伴います。それが続いたのは正直、しんどかったですね。搬入計画を綿密に立て、躯体の構築から作業動線を盛り込んで工事を進めました。
ここまで地下に設備を集約することは滅多にありません。重たい設備機器を地下深くまで下ろし、身動きのとりにくい状況で所定の位置に据える作業は、危険を伴います。それが続いたのは正直、しんどかったですね。搬入計画を綿密に立て、躯体の構築から作業動線を盛り込んで工事を進めました。
地下の洞窟を思わせる隠れ家バー『Den Kyoto』
住宅や名所旧跡がひしめく市街地で、作業ヤードがとれなかったことも工事のハードルを上げる一因でした。車両の搬出搬入は東側のバス通りからしかできず、その出入りが地域の方々のご迷惑にならないよう、敷地内で工事が完結する施工計画を立てる必要もありました。現場として最初にみんなで確認をしたのは、工事中の地域の方々の負担を意識して進めよう、ということ。振動騒音計の数字を開示し、隣接する公園の清掃に参加させていただくなど、日々、近隣のみなさんと顔を合わせる中で、「どうですか?」と感触を聞く。ご意見があればその部分の仮設の整備を見直す。感覚で言うと、通常の5割増し以上の手間がかかったと思います。
気持ち良く工事を進めていけることは、この工事の重要な条件のひとつです。工事中の近隣との関係は、建物が建った後のことにも影響を及ぼします。気持ち良く工事が進めば、気持ち良く使える。町の人にも長く愛される。工事の終盤、地域の方から「いろいろ気を配ってくれてありがとう」という言葉をいただいた際は、本当にうれしく、ホッとしたのを覚えています。
気持ち良く工事を進めていけることは、この工事の重要な条件のひとつです。工事中の近隣との関係は、建物が建った後のことにも影響を及ぼします。気持ち良く工事が進めば、気持ち良く使える。町の人にも長く愛される。工事の終盤、地域の方から「いろいろ気を配ってくれてありがとう」という言葉をいただいた際は、本当にうれしく、ホッとしたのを覚えています。
高さ制限のある限られたスペースを最大限生かすために15m掘り下げて地下空間を生み出した
携わる人の思いが集約されて
ひとつの建物が出来上がる。
ひとつの建物が出来上がる。
外観の工事で印象に残っているのは、格子状のルーバーの設置です。みなさんにご好評をいただいていますが、1本1本、ピッチに合わせてつけていく作業はなかなか大変で(笑)。コンクリートの躯体側に金物を取り付け、その金物にルーバーを縦向きに、小立てで固定しています。ルーバーそのものは、構造材としても使える集成材を用いて特注でつくりました。道路使用作業ができない狭さの中、足場を設置面に沿って組み替えるのも難儀で、今見ても、よくぞみんなやり切ったな、と。
内装は、施工しながらタイのデザイナーと部屋ごとの設えやデザインを決めていきました。着工時にインテリアデザインを再考する運びとなったため、施工当初は白紙の状態で……。求められるデザインとコストとの調整が、現場としては非常に時間を割かれた部分です。それでも、今回、タイが誇るホテルブランド「デュシタニ」の日本初進出ですから。この事業に懸ける彼らの思いを汲み、彼らの世界観をできるだけ具現化するのが大事なところだよね、と設計ともよく話をしました。
建築は携わる人たちの思いが集約されて出来上がっていくものだと、常々感じています。お金を出して建てる事業者、建物を使う運営側の人、周りで暮らす地域の方々。設計、施工、そして実際に建物をつくり上げる現場の作業員、その全ての人の思いを集約して初めて、ひとつの建物が出来上がる。それは今回の「デュシタニ京都・植柳コミュニティセンター」でも強く感じたことのひとつです。
どの現場にもそれぞれに、完成までには幾多の「難しさ」がありますが、個人的にはどんな問題があっても「諦めるな」と自分に言い聞かせながら仕事に取り組むようにしています。私は元々中堅ゼネコン出身で、50代での転職で戸田建設に来たのですが、戸田建設ならではの社風として強く感じるのは、真面目さです。いい加減なことは絶対に許さないぞ、という気風が、会社の文化としてある。ものづくりの会社として、それはとても大事なことだと、仕事をする中で日々、実感しています。
内装は、施工しながらタイのデザイナーと部屋ごとの設えやデザインを決めていきました。着工時にインテリアデザインを再考する運びとなったため、施工当初は白紙の状態で……。求められるデザインとコストとの調整が、現場としては非常に時間を割かれた部分です。それでも、今回、タイが誇るホテルブランド「デュシタニ」の日本初進出ですから。この事業に懸ける彼らの思いを汲み、彼らの世界観をできるだけ具現化するのが大事なところだよね、と設計ともよく話をしました。
建築は携わる人たちの思いが集約されて出来上がっていくものだと、常々感じています。お金を出して建てる事業者、建物を使う運営側の人、周りで暮らす地域の方々。設計、施工、そして実際に建物をつくり上げる現場の作業員、その全ての人の思いを集約して初めて、ひとつの建物が出来上がる。それは今回の「デュシタニ京都・植柳コミュニティセンター」でも強く感じたことのひとつです。
どの現場にもそれぞれに、完成までには幾多の「難しさ」がありますが、個人的にはどんな問題があっても「諦めるな」と自分に言い聞かせながら仕事に取り組むようにしています。私は元々中堅ゼネコン出身で、50代での転職で戸田建設に来たのですが、戸田建設ならではの社風として強く感じるのは、真面目さです。いい加減なことは絶対に許さないぞ、という気風が、会社の文化としてある。ものづくりの会社として、それはとても大事なことだと、仕事をする中で日々、実感しています。
難工事を乗り越えて設置した格子状の木製ルーバー
新しくつくるのだから、
より安全な、より良い場所に。
より安全な、より良い場所に。
事業者 安田不動産 北山武
本計画は地域の資産である小学校跡地を活用したプロポーザルであり、地域の皆様との協議を経てホテルの北側に地域コミュニティの拠点となる屋内運動場を併設することとなりました。事業者として見ていかなければならない多岐にわたる事柄と、地域への貢献とを複合的に考えながら、一歩一歩進んできたプロジェクトです。特に屋内運動場は、災害時に地域の方々の避難所となる場所。せっかく新しくつくるのだから、「より良いもの」になることを目指し、避難できる人数を増やすことも目標として掲げておりました。
地域コミュニティセンターの入り口。消防分団、屋内運動場などが併設されている
元々避難所の役割を担っていた小学校の講堂は、広さが390平米で受け入れ人数は195名。新たな「植柳コミュニティセンター」では屋内運動場で206名、自治会館で19名、合計225名を受け入れられる環境を整備しました。鴨川氾濫時の水害対策についてはハード面だけではなく、ソフト面、注意報や警報が出た場合、どの段階でどういった避難をするかといったマニュアルづくりも、地域の方々にご協力させていただきました。
もちろん、運動場としてもより良く、気持ち良く使っていただけるものを目指しました。地域の方々から「竣工後にも残してほしい」と言われたもののひとつに、バレーボールができる環境、というのがありまして、講堂ではボールが天井に当たることもあったようですが、新設した屋内運動場は天井を高くし、採光窓も設けるなど明るく開放的な空間を戸田建設さんに実現していただきました。早速バレーボールやバドミントンなどの活動が再開されており、喜んで使っていただけているのではないかと思います。
もちろん、運動場としてもより良く、気持ち良く使っていただけるものを目指しました。地域の方々から「竣工後にも残してほしい」と言われたもののひとつに、バレーボールができる環境、というのがありまして、講堂ではボールが天井に当たることもあったようですが、新設した屋内運動場は天井を高くし、採光窓も設けるなど明るく開放的な空間を戸田建設さんに実現していただきました。早速バレーボールやバドミントンなどの活動が再開されており、喜んで使っていただけているのではないかと思います。
災害時には避難所としても使用できる強度でつくられたコミュニティセンター2階にある屋内運動場
ここでいいね、という合意点から
最良の答えへと辿り着くために。
最良の答えへと辿り着くために。
この土地の所有者は京都市で、廃校の後、地域の拠点として継続活用されていたものの、耐震性の懸念から再開発・有効活用を模索されていました。その中で、我々は京都市と地域の方々とどこまで歩み寄れるか、お互いの合意をどのように得ていくのかが、全体を通して非常に重要なプロセスとなりました。三者での協議会を多いときは月2回程度開催し、どの方向に進めば、三者それぞれに納得できるものになるのかを探り続けたことが、今回、完成に辿り着けた最大のポイントだったと思います。
市の方針、住民たちの意向、デベロッパーの理想……。どれかひとつだけが突出しても、うまくいかないものなんですよね。市の設定条件は当然満たしつつ計画しておりましたが、地域の皆様からそちらを超える仕様への期待も受け、我々事業者としてどのレベルまでの整備をすべきか、予算も考慮しながらより良い形を目指し、応えていかなければならない。できるところとできないところを整理し、なんとか三者が納得できるような計画を一緒に実現しましょう、と。その合意点は、それぞれにとっての100点ではないかもしれないけど、「ここでいいね」という着地点があるはず。今回はそれがどこなのかを三者でよくよく話し合いました。
そんな中、戸田建設のみなさんには、本当に一生懸命やっていただき、感謝しています。先ほど「着地点」という言葉を使いましたが、着地点が残念なものだったら、モチベーションは上がりません。ホテルもコミュニティセンターも、最終的にひとつのゴールへと向かっていけたのは、このデザインがあってこそ。ありがたかったのは、設計、施工、営業の方も含め、戸田建設のチームが常に連携しながら動いてくださったことです。担当区分を超えた意思疎通がしっかり取れていて、人間関係を丁寧に築いてくださった、という印象があります。その丁寧さが、「ここでいいね」という合意点から、最終的に「ここがいいね」という最良の答えになるための、とても大きな要因だったと感じています。
市の方針、住民たちの意向、デベロッパーの理想……。どれかひとつだけが突出しても、うまくいかないものなんですよね。市の設定条件は当然満たしつつ計画しておりましたが、地域の皆様からそちらを超える仕様への期待も受け、我々事業者としてどのレベルまでの整備をすべきか、予算も考慮しながらより良い形を目指し、応えていかなければならない。できるところとできないところを整理し、なんとか三者が納得できるような計画を一緒に実現しましょう、と。その合意点は、それぞれにとっての100点ではないかもしれないけど、「ここでいいね」という着地点があるはず。今回はそれがどこなのかを三者でよくよく話し合いました。
そんな中、戸田建設のみなさんには、本当に一生懸命やっていただき、感謝しています。先ほど「着地点」という言葉を使いましたが、着地点が残念なものだったら、モチベーションは上がりません。ホテルもコミュニティセンターも、最終的にひとつのゴールへと向かっていけたのは、このデザインがあってこそ。ありがたかったのは、設計、施工、営業の方も含め、戸田建設のチームが常に連携しながら動いてくださったことです。担当区分を超えた意思疎通がしっかり取れていて、人間関係を丁寧に築いてくださった、という印象があります。その丁寧さが、「ここでいいね」という合意点から、最終的に「ここがいいね」という最良の答えになるための、とても大きな要因だったと感じています。
京都駅、西本願寺に程近いロケーション。地域に密着し町に馴染むことを目指した
夜になると木格子のルーバーデザインが一際引き立ち京都らしさを演出






