地方の暮らしを守る
多機能バイパスを
最新の工法で実現する

木与防災・木与
第1トンネル

山口県下関市と広島県広島市を結ぶ一般国道191号の事前通行規制区間を回避し、緊急時の代替路ともなる「木与防災」。戸田建設では、山口県阿武郡阿武町の木与から宇田までの延長5.1kmのうち、最も長い「(仮称)木与第1トンネル」の工事を進めている。この工事に、覆工コンクリートの自動打設ロボット「セントルフューチャーズ™」を初めて導入。住民悲願の多機能バイパスに、最新の工法で挑む。

待ちに待った命の道。
未来に続く暮らしの道。
阿武町議会議長(山口県) 末若憲二
私たち地元住民にとって、木与防災は命の道。計画区域は、過去に何度も土砂崩れがあった場所なんです。そのたびに1本しかない国道が通行止めになり、住民の方々はずいぶん難儀をされてきました。

大雨などによる事前通行規制区間でもあり、木与地区は過去10年で累積447時間、全面通行止めになりました。大きな病院まで車で救急搬送をされるにしても、迂回するとなると、普段よりずっと時間がかかってしまいます。そのため、通行規制区間を回避できる「命の道」をなんとか整備していただけないかと、国土交通省にお願いに行ったり、署名活動をしたりしてきまして、やっと願い叶っての着工。完成を心待ちにしています。

トンネル工事が始まってから、私たち阿武町の町議会も現場を見に行きました。戸田建設さんには、一番長い「木与第1トンネル」を作っていただいていますが、水が出て大変ご苦労をされているという話も聞いていますし、その中でも工事を進めていただいていて、本当にありがたいと思っています。住民の皆さんにも、私たちが待ちに待ったトンネルが、実際にどういう過程で作られていくのか、見学会などの機会を設けてもっと知ってもらいたいと思っているところです。
漏水対策を万全に行いながら掘り進める木与防災トンネル
利便性の向上を足掛かりに
町の魅力をもっと知ってもらいたい。
阿武町は今年で生誕70年。その間、人口は約1万人から3,000人近くに減り、「消滅可能性自治体」と言われています。近年は移住者も増え、人口の減少傾向は以前より若干緩やかになってきているのですが、やはり高齢化は進んでいます。でも、高齢化と言って指をくわえているだけでは、未来は切り拓けません。

阿武町の主な産業は、農業や漁業、畜産業といった一次産業です。安全で走行性の高い道路が整備されるというのは、農水産物の出荷にも弾みがつきます。また、町内から萩市へ車で働きに行っている人も多いのですが、迂回の必要がなくなるのは大きな安心ですし、通勤も楽になります。つまり木与防災は、命の道であるとともに、地域経済の活性化や生活を支える「暮らしの道」。ゆくゆく山陰道とつながれば、若い方々が移住を考える時にもずいぶん違うと思うんですよね。

町の魅力はたくさんあります。山があって森があって、海がある。阿武町のなかでも奈古地区の海岸沿いは景色がよく、その景色のいいところに道の駅があるんです。実は阿武町の道の駅は、国土交通省からの認定第1号のひとつで、「道の駅発祥の地」としても知られています。道の駅のすぐ近くには、アウトドアメーカーさんに監修に入っていただいたキャンプ場も作りました。そこがまた夕日がきれいな所で、交通の利便性が上がれば、広島方面や九州地方から来る方も増えるのではないか。そんな期待も膨らんでいます。
海沿いを走る国道191号線

汎用性のある技術で
人員不足を解消したい。
営業部門(プロジェクトマネージャー) 二宮伸二
2017年に事業化された「木与防災」のなかで、戸田建設が受け持っているのは、全長1,972mの「木与第1トンネル」。この工事に初めて導入した覆工コンクリートの自動打設ロボット「セントルフューチャーズ™︎」の技術面で他社と明らかに違うのは、「セントルフューチャーズ」に用いられているオリジナルの配管切り替え装置「スイッチャーズ®︎」が、普通の硬さのコンクリートでも使える、ということです。

トンネル工事における自動打設の技術開発に取り組んでいる会社は多く、戸田建設でもこれまで積み重ねてきた技術を組み合わせたオリジナルの自動打設ロボットができるのではないか、という話が持ち上がったのが始まりです。ただ、他社さんの自動打設は、対象としているコンクリートが、柔らかくて型枠の中に押し流しやすい中流動コンクリートなんですね。さらにもっと柔らかい、頑張って押し込まなくても勝手に流れていくような高流動コンクリートの場合もあります。

でも、中流動や高流動はコストも高く、使えるトンネルは限られてしまう。ならば、一般的なトンネル工事で最も多く使われる、普通のコンクリートで自動化を実現しよう、というのが大きな挑戦で、実際、普通のコンクリートでの自動打設に成功したのは、国内で戸田建設が初めてとなります。

将来的な汎用性のことを考えると、普通のコンクリートが使えるほうが絶対にいい。「スイッチャーズ」の開発には1年かけ、その後「セントルフューチャーズ」を木与防災に導入するまでも1年以上かかっているのですが、今後の可能性も含め、本当にいいものができたな、という自負があります。土木学会などでの発表を見ていても、普通のコンクリートでの自動打設に向けた要素技術の開発が増えてきており、それについては、戸田建設が一歩進んでいるな、と感じます。他社との競争力という点も励みになりますが、そもそも、土木の技術開発は何のためかと言ったら、これからの社会のためですから。そこに向かっての一歩先を見出せたことは、やっぱり嬉しいですね。
覆工コンクリートの自動打設ロボット「セントルフューチャーズ™」
自動化するからこその
高い品質を目指したい。
覆工コンクリートの打設が自動化できれば、作業の効率化が図られ、工事の担い手不足の解決につながります。どの業種でも人手不足が深刻化していますが、特にこの10年ほど、建設業界では人が足りない、という問題がいつもネックになるので、省人化は、社会に必要なインフラ工事を担う現場の切実なニーズです。究極的な目標は、人員ゼロ。リスクのある場所に人が近寄らなくて済めば、重大事故も防げますから。安全面のメリットもとても大きいと考えています。

「木与第1トンネル」の現場では、今回の「セントルフューチャーズ」の導入により、これまでコンクリート打設に必要だった人員を、6人から4人に減らすことができています。実際に使ってみての改善点などを拾い上げながら、次のフェーズでは、あと1人でも2人でも、かかる人員を減らせるよう、自動化の余地のある部分の開発に取り組んでいます。

その時に大切にしているのが、品質です。確実にいいもの、人が打設した以上の優れた品質じゃないとダメだと思うんですよね。自動化したからこそ、これまで以上のクオリティーが保たれる。そんな次の時代の自動打設を目指していきたいと思っています。
「セントルフューチャーズ™」の主要設備「スイッチャーズ®︎」

初号機ゆえの
試行錯誤はいとわない。
施工部門 三宅拓也
トンネルの覆工コンクリートを打設する作業って、重労働なんです。若い頃、作業員と一緒に作業をしたこともありますが、もう本当に、立ち上がれなくなるくらいキツい。この作業をなんとか楽にできるようにならないか、とずっと思っていました。専門の職人もどんどん減っている中、今後、きちんとした品質を保っていけるのかも課題としてありますし、過去の現場では、打設に必要な人数が揃わず、工事が進まない時期もありました。そうなれば、新しい技術を取り入れ、今までより少ない人数でもできるような方策を考えていくしかない。

「セントルフューチャーズ™︎」は新しい機械ですし、この現場が初めての導入なので、運用しながらの改善は、日々、必要になります。でも、それは最初から想定の範囲内と言いますか、新しい技術が1つできたからって全部が全部上手く行く、なんてことはないと思うんです。誰でも不具合なく使えるようなものにするためにも、最初は試行錯誤です。それは、誰かがやらなければならない。全てのものには、必ず「最初の人」がいるものです。大変ですけど、個人的には一番最初にやるほうが好きですね。だって、最初の1人のほうがかっこいいじゃないですか(笑)。

トンネル工事の現場で一番大切にしているのは、安全です。トンネル工事って、ひとたび事故が起きると、重大災害につながることが多いんです。30代の頃、山(切羽:トンネルの掘削面)が水と共に崩れて止まらないから、掘った土を中に持ち込んで埋めていかざるを得ないことがありました。その時、怖かったんです。対応作業をしてくれる人たちのリスクを考えると怖くて、膝が震えて止まらなくなった。彼らの命を守るのは、自分たちしかいない。そういう思いでずっとやってます。機械化が進んでいる究極の理由も安全の確保ですよね。人が直接入って作業をする時間を減らすためですし、自動化が進み、全部リモコンで機械を動かせるようになれば、もし山が崩れても人の命は守られる。そのための技術開発は簡単ではないけど、いずれそうなるのではないか、と思います。
硬い岩盤を削孔するドリルジャンボ
人が作るからこそ、
人を守らなければならない。
「木与第1トンネル」の地盤は当初の予測に反して地質状態が思わしくなく、水も大量に出る。普通には掘れないので補助工法を使い、崩れるのを防ぎながらの作業が続いています。前方調査や探査を行いながら、どうやって前に出るかを話し合って決めるのですが、そういった予測外の事態の解決は、今までの経験が活かされる部分です。
会社に入って仕事を始めた頃、一流の坑夫さんってどういう人かというと、山と話ができる人だと教えられました。山がおかしくなる時は、何らかのサインを出している。それを見逃さず、常に先を読み、対応を考える。だから毎朝一番先に入って、今日はどんな? って山に聞くんです。対応が遅れたら命取りですから。目を凝らす、耳を澄ます、匂いも嗅ぐ。五感全部使って、岩盤の亀裂の状態や岩層の流れから、見えている山の先を読む。それを「先山を読む」と言うのですが、人工知能がトンネル工事の現場でもっと使えるようになったら、そういった先々を読む助けになると思います。ポイントは、培ってきた人の経験値を、AIにどう伝えていくか。トンネルは人が作るからこそ、人を守らなければならない。今は、その「新しい時代」の準備を始める時だと感じています。

やっぱりトンネルは自分たちだけでは掘れませんから。どんなに戸田建設が完璧な計画を作れても、協力会社の方々がその計画を理解して作業してくれなかったら、1ミリも進まない。協力会社とのつながりや作業員を大切にしなければいけないというのは、絶対です。そこは、戸田建設の良さでもあるんじゃないですかね。その気風が、脈々と受け継がれている。人とのつながりを疎かにせず、丁寧に、一生懸命やる。社風だと思います。それはこれからも大切にしたいと思っています。
岩塊を小割するブレーカー
瓦礫を迅速なチームワークで運び出す